ストーリー全体を考える仕事だと誤解されていることが多い。
だけど、そういうケースは少ない。
実際には、大まかなストーリーラインはシナリオライターに
作業が渡される段階で決まっているものなのだ。
企画者とか、プランナーと呼ばれる人が、仕様書、と呼ばれる
ゲームの設計図を書く。この設計図の中に、プロット、と呼ばれる
ストーリーラインを大まかに記したものが含まれている。
よく桃太郎の話をするのだが、
川から桃が流れてくるのも、ソレをおばあさんが見つけるのも、
桃の中から桃太郎が生まれるのも、鬼退治に行くのも、全て
このプロットの中に明記されていることだ。
シナリオライターの仕事は、桃が流れてきたときにおばあさんが言う、
「あらあら大きな桃だこと」や「僕は鬼退治に行ってきます」
というような台詞、「おばあさんが川で洗濯をしていると」などの、
直接お客さんの目に触れる文章、台詞を書くこと。
つまり、お話の流れを決めるのは、シナリオライターの仕事ではない。
そこで何が起こるのか、どのキャラが、どういう風に死ぬのか、
そういったこと一切は、シナリオライターが執筆するまでに
決まってしまっていることなのだ。
例外もある。
シナリオライターが仕事を受ける段階でプロット自体が決まっておらず、
シナリオライターがストーリーの展開から考える段階から
仕事を請けるケースも少なくはない。
3行程度の思いつきのようなものから、ゲームの企画自体を作ることも
よくあることだ。が、それは企画、プランナーとしての仕事であって、
ライティングとは別の仕事になる(当然、別料金だw)。
そういって例外でない限り、シナリオライターの仕事は、
与えられた事象がシーンで起こるときに、どのように描けば、
読み手に最も印象的に効果的に伝わるかを考えて最善の言葉で書き記し、
前後の流れからキャラクターの心象を描き、
その場と展開に合った台詞をキャラクターたちに話させることにある。
がっかりする人もいるだろう。
もしかすると、楽な仕事と思う人もいるかもしれない。
だが、この仕事は想像以上に難しい。
まず、仕様書とプロットを読み込めていなければならない。
プランナーが書いた書類から、プランナーがどういう風に考えて
そのシーンを作ったのか、そのキャラクターを作ったのか、
何をさせたいのか、そういった意図を全て読み取らなければならない。
人によっては「なんとなく」ストーリーを考える企画者もいる。
だが、なんとなくにも理由があるのだ。深層心理まで読み取ってでも、
意図を掴まなければならない。企画書を作ったプランナー以上に、
その物語を理解していなければならない。
次に、キャラクターがいる。
ストーリーに登場するキャラクター全員が、何を考えているのか、
何故、その台詞を話しているのか、台詞の裏で何を考えて、
どういう意図や目論見があってその台詞を口にしたのか。
登場人物全ての性格と思考と心理状態を把握し、状況を把握し、
適切な言葉を紡ぎ出さなければならない。
ロックバンド好きで、常にインディーズのバンドの話ばかりをしている
キャラクターがいたとする。そのキャラクターの会話を、
書かなければならない。
医者のキャラクターが語るウンチクを、専門家が見ても最低限
アラがないような内容で書かなければならない。
さらに、ユーザーがいる。
どんなにすばらしい文章も、読み手が理解できなければゴミだ。
読み手にあわせた表現、読み手に伝わりやすい表現が必須で、
どんな読み手に向けて書くのかを常に意識しなければならない。
っていうのはつまり、ユーザーを知らなければならないということ。
自分が作っているゲームを、どんなお客さんが買ってくれて、
その人たちはどんなことを喜び、どんなことを嫌い、何を求めて
そのゲームを買っているのか。そういったことを把握し、
応えなければならない。
仕様書を理解し、キャラクターを把握し、与えられたシーンで、
ユーザーに向けた、ユーザーの心を震わせるテキストを書く。
それは、生半可なことではない。
だからこそ、「シナリオライター」という仕事があるのだ。
僕は決して優秀なシナリオライターではないけれど、命がけで、
自分の心を削りながらこの仕事を続けているシナリオライターと、
彼らの奇跡とも言えるような仕事をいくつも見てきた。
だからこそ思う。3流とはいえシナリオライターを名乗る以上、
僕も、自分の能力の許す限りで戦わなければならないと。
シナリオライターは、最前線にいる歩兵だと思うことがある。
ダイレクトに、ユーザーに触れる場所で戦っているからだ。
彼らは、決して戦術を決めている指揮官ではない。
絵師のような、圧倒的な戦闘力の、戦車のような存在でもない。
だが、勝敗を決するのは、いつだって最前線の歩兵なのだ。
ここは最前線。
逃げること即ち部隊の敗北を意味する、
引いてはならない戦場なのだ。
さあ、戦おう。